AI競争というと、より高性能なモデルを作れるか、計算資源を確保できるか、海外勢に追いつけるか、といった話になりがちです。
しかし、日本にはもう一つ、あまり語られていない時間軸があるのではないでしょうか。
AIへ渡す価値のある知識を持つ人から、直接話を聞ける時間です。
スマホが高校生にも当たり前になり始めた頃、高校1年生だった人は、2026年にはすでに20代後半です。会社では新人ではなく、中堅へ向かう年齢に入りつつあります。
逆に言えば、紙、電話、対面、現物、身体感覚を中心とした社会の中で長く仕事を覚え、その後にデジタル社会へ移ってきた人たちは、年々、就業社会の中で高年齢側へ移っています。
そこでOpeNpeNでは、一つの疑問を立てました。
アナログ社会で長く蓄積された熟練知や暗黙知を、本人から直接聞き出せる時間には、いつ頃から限界が見え始めるのか。
そして、その時間軸と、日本がいま力を入れ始めたバーティカルAIは、実はつながっているのではないか。
この記事では、2013年のスマートフォン普及を基準にしたOpeNpeN独自の世代モデルを作り、それを公的な将来就業者推計へ重ねて検証します。
当初は「2034年が一つの期限になるのではないか」と考えていました。
しかし、実際の就業者推計へ重ねると、その仮説はそのままでは成立しませんでした。
2034年になっても、OpeNpeNが「アナログ形成世代」と呼ぶ人たちは、就業者のおよそ4人に1人残るという結果になったからです。
ところが、そこで別の意味が見えてきます。
2025年には約4割だったこの世代が、2034年には約4分の1、2040年には約6分の1へ縮んでいく。
つまり2034年は「最後の日」ではありません。
まだ直接話を聞ける人が相当数残っている一方、その世代が急速に少数側へ移っている時期。
この記事では、2034年をそう捉えます。
まず前提:年齢でデジタル能力を決める話ではない
この記事で扱う世代分類は、「何歳だからデジタルに弱い」「若いからAIが得意」といった能力判定ではありません。
60代でもAIを高度に使う人はいますし、20代でもデジタル活用が得意とは限りません。
ここで見たいのは能力ではなく、生活や仕事の基本的な型を、どのような社会環境の中で形成したのかです。
紙、固定電話、FAX、対面、現物確認が中心だった時代に社会人経験を積んだ人と、スマートフォン、クラウド、検索、SNSが当たり前になった後に社会へ出た人では、知識の優劣ではなく、持っている経験の種類が違います。
その違いを可視化するために、スマホ普及を一つの基準点として使います。
なぜ基準を2013年に置くのか
2013年を選んだのは、「スマートフォンが発明された年」でも、「日本人全員がスマートフォンへ移行した年」でもありません。
若い世代にとって、スマートフォンが生活の前提になり始めた時期として一定の説明力があるからです。
NTTドコモ モバイル社会研究所によると、携帯電話所有者に占めるスマートフォン比率は2010年には4.4%でしたが、2013年には36.8%、2015年には51.1%となっています。
さらに年代別では、2013年時点ですでに15〜19歳が69.2%、20代が65.0%、30代が51.2%でした。若年層ほど先にスマートフォンへ移行していたことが分かります。
したがって本記事では、2013年を「若年層でスマホが当たり前になり始めた社会的な基準点」とします。
もちろん、これは厳密な境界ではありません。地域や家庭環境、職場、所得などによって導入時期は異なります。
あくまで、社会全体の世代交代を考えるための思考モデルです。
OpeNpeN独自の4世代モデル
2013年時点で人生のどの段階にいたかによって、次の4区分を置きます。
| 区分 | 2026年現在 | 2013年当時の目安 | 本記事で見る経験環境 |
|---|---|---|---|
| ①アナログ形成世代 | 53歳以上 | 40歳以上 | 仕事・生活の基本型を主にスマホ普及前に形成 |
| ②デジタル移行世代 | 26〜52歳 | 13〜39歳 | アナログ環境を経験し、その後デジタルへ本格移行 |
| ③デジタル優勢世代 | 14〜25歳 | 1〜12歳 | 人生の大半がスマホ普及後 |
| ④デジタルネイティブ世代 | 0〜13歳 | 2013年以降生まれ | スマホのない社会をほぼ経験していない |
これは公的な世代分類ではなく、OpeNpeN独自の暫定モデルです。
特に①と②の境界を「2013年時点40歳」とすることに、学術的に確定した根拠があるわけではありません。
40歳頃までには仕事や生活の基本的な判断様式が相当程度形成されているだろう、という仮説を使っています。
したがって、このモデルで重要なのは「53歳と52歳には決定的な違いがある」ということではありません。
アナログ社会の中で長期間、実務経験を積んだ層が、時間とともに就業社会の高年齢側へ移っていく。
その動きを見るための道具です。
単純な年齢表から「2034年」が浮かんだ
この区分を単純に未来へ延ばすと、①アナログ形成世代は次のように年齢を重ねます。
| 年 | ①アナログ形成世代 |
|---|---|
| 2026年 | 53歳以上 |
| 2030年 | 57歳以上 |
| 2033年 | 60歳以上 |
| 2034年 | 61歳以上 |
| 2035年 | 62歳以上 |
| 2040年 | 67歳以上 |
ここで当初、OpeNpeNでは23〜60歳を単純な「現役中心層」と仮定しました。
すると2034年に、①アナログ形成世代が23〜60歳の範囲から初めて外れます。
これが最初に「2034年」という年へ注目した理由でした。
ところが、このモデルには明確な問題があります。
60歳を超えても、実際には大勢の人が働いているからです。
「60歳になったので突然、熟練知を持つ人が社会から消える」ということはありません。
そこで、ここからが今回の記事の本当の検証です。
23〜60歳という仮定を捨て、実際の就業者推計に重ねてみた
JILPT(労働政策研究・研修機構)は、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」などを前提に、2040年までの性・年齢階級別の就業者数を推計しています。
今回使用したのは、「2023年度版 労働力需給の推計」の「成長実現・労働参加進展シナリオ」です。
このシナリオでは、就業者総数は2025年6,810万人、2030年6,858万人、2035年6,827万人、2040年6,734万人と推計されています。
ここで注意したいのは、2025年以降の数字も実績値ではなく推計値だということです。
また、高齢者の労働参加が進むシナリオでは、60〜69歳の就業者は2022年の933万人から2040年には1,342万人へ、70歳以上も523万人から758万人へ増えると見込まれています。
つまり、「60歳を超えたら分析対象外」とするのは、現実の将来就業社会を見るには適切ではありません。
そこでJILPTが公表している5歳階級別の就業者数に、OpeNpeNの①アナログ形成世代、すなわち2013年時点で40歳以上だった層を重ねて独自に概算しました。
ここで計算しているのは「熟練者率」ではありません。
誰が熟練知を持つかは、職種、経験年数、技能水準、業務内容などによって異なり、今回の統計からは分かりません。
以下の数字は、あくまでOpeNpeNが定義した「アナログ形成世代」の就業者比率です。
【OpeNpeN独自推計】アナログ形成世代は就業者の中でどこまで減るのか
| 年 | ①アナログ形成世代の年齢 | 就業者全体に占める概算比率 | 直感的な見え方 |
|---|---|---|---|
| 2025年 | 52歳以上 | 約40.8% | 約5人に2人 |
| 2030年 | 57歳以上 | 約32.3% | 約3人に1人 |
| 2034年 | 61歳以上 | 約25.9% | 約4人に1人 |
| 2035年 | 62歳以上 | 約24.3% | 4人に1人を下回る |
| 2040年 | 67歳以上 | 約17.1% | 約6人に1人 |
算出方法: JILPT「2023年度版 労働力需給の推計」の「成長実現・労働参加進展シナリオ」における5歳階級別就業者推計を使用。5歳階級の途中にOpeNpeNの世代境界が入る場合は、階級内の各年齢に同数の就業者がいると仮定して簡易按分した。2034年はJILPTの公表年ではないため、2030年と2035年の年齢階級別推計値を線形補間した参考推計。したがって一定の推計誤差を含む。
各比率はJILPTの公表値をもとにOpeNpeN側で再計算し、元データと計算結果を照合したうえで掲載しています。
上表は政府やJILPTが公表した「アナログ形成世代」の公式統計ではなく、公開統計を使ってOpeNpeNが独自に算出した概算値です。
検証したら、「2034年にゼロ」という仮説は崩れた
当初の単純モデルでは、2034年に①アナログ形成世代が23〜60歳から外れるため、「一つの期限になるのではないか」と考えました。
しかし、実際の就業者推計へ重ねると、2034年にも約25.9%残ります。
約4人に1人です。
したがって、
「2034年にはアナログ形成世代が就業社会からいなくなる」
という解釈は成立しません。
ここから直接分かるのは、アナログ形成世代の就業者比率が低下していくことまでです。
それでも、アナログ環境の中で長期間、仕事や判断の型を形成した層そのものが少数側へ移っていくことは、その世代が持つ経験へ直接アクセスできる環境を考えるうえで一つの補助線になります。
ここから先が、OpeNpeNの仮説です。
数字を別の方向から見ると、興味深い変化が見えてきます。
2025年には約40.8%。
2030年には約32.3%。
2034年には約25.9%。
2040年には約17.1%です。

2025年から2034年までの9年間だけで、約14.9ポイント減ります。
比率で見れば、就業者に占める割合は約37%縮小する計算です。
つまり2034年は「消える年」ではない。
まだ約4人に1人いるからこそ、経験を聞き取り、残す作業を本格化できる時期でありながら、その後はさらに少数側へ移っていく地点なのです。
この方が、最初の「60歳だから締切」という説明より、現実に近いと考えます。
2034年だけ突然崖が来るわけでもない
もう一つ、検証で分かったことがあります。
①アナログ形成世代の比率は、2034年だけ突然急落するわけではありません。
2025年から2040年へ向けて継続的に低下していきます。
したがって、
「2034年こそ絶対的な技能継承期限である」
と断定する根拠もありません。
この記事での2034年は、予言された締切ではなく、
「約4割だった層が約4分の1まで縮む2030年代半ばを象徴する警告点」
と位置づけるのが妥当です。
ここまでが、OpeNpeN独自モデルを公的データへぶつけて得られた答えです。
本当の問題は「デジタル世代」ではなく、経験を直接聞ける時間
では、なぜこの世代交代がAIと関係するのでしょうか。
ポイントは、年齢そのものではありません。
その人たちが、どのような現実を経験してきたかです。
熟練知とは、マニュアルに書かれた作業手順だけではありません。
長年現物を見た経験、身体感覚、失敗の記憶、現場の勘、人間が実際にはどう動くかという理解、「理屈では合っているけれど、何かがおかしい」と感じる違和感まで含みます。
たとえば製造現場なら、
「数値は正常だが、今日は音が違う」
「この振動は、放っておくとまずい」
「図面上は成立するが、実際に組むと無理が出る」
といった判断があります。
顧客対応なら、
「内容は正しいが、この順番で説明すると相手は納得しない」
「この顧客には、まず不安を受け止める必要がある」
といったものもあります。
もちろん、こうした知識をすべてアナログ形成世代だけが持っているわけではありません。
若い熟練者もいますし、年齢を重ねただけで高度な暗黙知が身につくわけでもありません。
それでも、長期間の実務経験を通じて形成される判断の中には、本人が現場を離れる前でなければ聞き出しにくいものがあります。
AIから見れば、こうした経験知は単なる「昔の知識」ではありません。
AIのもっともらしい出力が、現実世界でも本当に正しいのかを検証するための知識にもなり得ます。
生成AIの能力が高まるほど、現実を長く見てきた側の判断能力が不要になるとは限りません。
むしろ、AIが自然な文章やそれらしい提案を出せるからこそ、「でも現場では違う」と見抜く人の経験が重要になる場面があります。
技能継承は、すでに企業の現実的な問題になっている
これは未来の空想だけではありません。
2025年版ものづくり白書には、石川県の旭ウエルテックが、ベテラン職人から若手職人へ指導する時間を十分確保できないという課題に対し、過去の不具合や製作ノウハウを蓄積する社内システムを構築した事例が掲載されています。
同社では、工夫、苦労した点、引き継ぎたい技術などを製品データベースへ登録し、必要な情報を抽出できる通称「トラの巻」を作り、ベテランのノウハウ共有と若手育成を進めています。
さらにJILPTが2026年に公表したものづくり企業調査では、人手不足への対応として「定年後再雇用者など高齢者の活用」を挙げた企業が48.5%に上っています。
これは逆に言えば、年齢の高い就業者が、いまなお現場を支える重要な戦力になっている企業が少なくないことを示しています。
だから問題は、
「高齢者がいなくなる」
ではありません。
まだいる。しかし、その世代構成は着実に変わっていく。
ここが重要です。
アナログ礼賛ではない。若い世代にしか渡せないものもある
この記事は、アナログ形成世代を持ち上げるための記事でもありません。
デジタル優勢世代やデジタルネイティブ世代には、別の強みがあります。
AIを自然に使う。
大量の情報から検索する。
データを共有する。
動画や画像を瞬時に記録する。
複数のツールを組み合わせる。
昔なら「その人の頭の中にしかなかったこと」を、検索可能な情報へ変える。
こうした能力は、これからの技能継承に不可欠です。
だから必要なのは、
ベテラン → 若手
という一方向の継承だけではありません。
ベテランは、現場知、失敗知、身体感覚、人間理解を渡す。
若手は、記録、データ化、AI活用、検索、分析、共有の方法を渡す。
これは、
アナログ知とデジタル知の双方向継承
と考えた方が実態に近いでしょう。
そして、ここへ第三の経路が入ってきます。
バーティカルAIを「知識保存装置」として見る
バーティカルAIとは、製造、医療、法務、金融、物流など、特定の産業や業務領域に特化したAIです。
一般的には、「汎用AIより専門領域に強いAI」と説明されます。
しかしこの記事では、別の見方をします。
バーティカルAIは、日本の現場に蓄積された熟練知へ将来もアクセスするための器になり得るのではないか。
もちろん、AIモデルだけを導入すれば知識が勝手に保存されるわけではありません。
必要なのは、動画、画像、音声、作業記録、失敗履歴、センサーデータ、設計変更理由などを残す仕組みと、それを検索・分析・参照できるAIを組み合わせた知識基盤です。
ここで「知識保存装置」と呼んでいるのは、その仕組み全体です。
政府のAI政策でも「暗黙知を含む現場の経験や知識」が重視されている
この見方は、政府の現在のAI政策とも無関係ではありません。
2026年7月14日に閣議決定された人工知能基本計画では、日本のAI戦略の一つとしてバーティカルAIの推進が位置づけられています。
その中では、暗黙知を含めた各現場の経験や知識をデータとして集積し、領域特化型のAIへ活用していく方向が示されています。
その直前、2026年7月10日の人工知能戦略本部でも、「バーティカルAI領域別戦略 中間とりまとめ」が議論され、現場記録作成や意思決定支援へのAI活用、AI・データ連携基盤の構築などを進める方向が示されました。
ただし、政府が「2034年までに熟練知を保存せよ」と言っているわけではありません。
政府が示しているのは、「現場の経験・知識」「暗黙知」「バーティカルAI」を日本のAI戦略上の重要な資産として扱う方向です。
そこへ、
「その経験を持つ人たちへ、直接聞ける環境は時間とともにどう変わるのか」
という時間軸を重ねたのが、この記事のOpeNpeN独自の考察です。
「AIが人間の仕事を奪う」とは逆のAI利用
AIの話では、
「人間の仕事がAIに奪われる」
という構図がよく使われます。
しかし、熟練知の継承という角度から見ると、正反対の使い方があります。
AIによって、消えそうな人間の知恵へのアクセスを残す。
アナログ社会で培われた知識を残すために、最先端のAIを使う。
この逆説は、日本のバーティカルAIを考えるうえでかなり重要なのではないでしょうか。
AIの性能競争だけを見ると、「どこの国が最も強い基盤モデルを作るか」という話になります。
しかしバーティカルAIでは、
そこへ投入できる現場データや判断履歴そのものが資産です。
そして熟練者本人から、
「なぜそうしたのか」
「何を見たのか」
「何が危ないと感じたのか」
「どんな失敗からその判断を覚えたのか」
と聞ける時間は無限ではありません。
技能継承には「第三のルート」ができる
従来の技能継承は、基本的にこうでした。
| 従来 | 新しく加えられるルート |
|---|---|
| ベテラン → 若手 | ベテラン → 記録・データ → バーティカルAI → 将来の若手 |

後者で残せるものは、たとえば次のようなものです。
- 過去の不具合と、そのとき何を見て判断したか
- 修理履歴と、本当の原因
- 検査画像と、合否を分けたポイント
- ベテランが作業中に発した説明
- 作業動画
- 異音・振動・温度などのセンサーデータ
- 設計変更をした理由
- 見積金額を調整した理由
- 顧客ごとの対応履歴
- 「マニュアル通りだとうまくいかない例」
AIは、ベテラン本人を完全に再現できません。
しかし、本人が去った瞬間に判断理由まで失われる状態と、
「過去に似たケースがあり、そのとき担当者はこう考えた」
と後世の人が検索できる状態では、大きな違いがあります。
ただし、全部AIへ移せるわけではない
ここを「全部AIへ覚えさせれば解決」とすると、この記事は急に弱くなります。
熟練知には、残しやすいものと残しにくいものがあります。
| 分類 | 例 | 主な残し方 |
|---|---|---|
| AIに残しやすい知識 | 不具合履歴、画像、測定値、作業動画、設計変更理由、対応ログ | データ化・検索・類似事例提示 |
| 人間に残す必要が大きい知識 | 身体感覚、責任判断、現場の緊張感、信頼関係 | 実地経験・指導・共同作業 |
| 人間とAIの両方で扱う知識 | 異常判断、品質判定、提案、トラブル対応 | AIが過去事例を提示し、人間が現実と照合 |

「今日は機械の音が何となく違う」
「数値は正常だが嫌な感じがする」
「図面では通るが、現場では難しい」
「この顧客には、まず謝るのではなく状況を全部聞いた方がいい」
こうしたものを100%データへ変換できるとは限りません。
だからこそAIは、人間の代わりというより、
過去の熟練知へアクセスする補助線
として設計する方が現実的です。
では、2034年までに何をすべきなのか
2034年までに巨大なAIシステムを完成させる必要はありません。
そもそも、2034年がすべての産業に共通する技能継承期限だと示すデータもありません。
今回の検証から言えるのは、もっと現実的なことです。
2030年代半ばに向けて、アナログ形成世代の就業者比率はかなり低下していく。
その変化を、経験知の棚卸しを先送りしないための一つの警告として使う。
そのくらいの位置づけが妥当です。
AI導入から始める必要もありません。
最初に探すべきなのは、
失われると困る判断
です。
「辞めたら困る人」ではなく、「その人しかできない判断」を探す
技能継承では、
「あの人が辞めたら困る」
という話になりがちです。
しかし、人間そのものを保存することはできません。
取り出せるのは、その人が行っている判断です。
- なぜその見積額にしたのか
- どんな異常なら止めるのか
- どこまでは様子を見るのか
- どの顧客にはどういう順番で説明するのか
- なぜ図面通りではなく変更したのか
- マニュアルに書けない例外は何か
- 過去に最も痛かった失敗は何か
- 若い頃の自分なら見落としたものは何か
こうした「なぜ」を抜き出すことが、熟練知の棚卸しになります。
文章だけで残そうとしない
熟練者に、
「あなたの暗黙知を文章にしてください」
と言っても、うまくいかないことがあります。
本人にとっては当たり前すぎて、何が特別なのか分からないからです。
だから、動画、音声、写真、作業履歴、失敗記録、チャット、センサーデータなど、形式を限定しない方がよいでしょう。
AIが後から整理できる時代だからこそ、
最初から完璧なマニュアルを作るより、まず素材そのものを消さない。
この発想は重要です。
若手を「記録係」ではなく共同編集者にする
若手の役割も、ただメモを取ることではありません。
ベテランを見ながら、
「今、どこを見ましたか」
「なぜそこで止めたのですか」
「数値のどこが気になったのですか」
「過去の何と似ていたのですか」
と聞く。
その答えを、検索できる形、画像と結びつく形、AIが参照できる形へ整理する。
ここでは若手も知識を渡しています。
ベテランは現場知を渡し、若手はデジタル化の方法を渡す。
技能継承そのものを共同編集作業にする。
これが、AI時代らしい継承の形かもしれません。
2034年の本当の意味
今回、最初に立てた仮説は、そのままでは正しくありませんでした。
23〜60歳という単純モデルでは、2034年にアナログ形成世代が0%になります。
しかし実際の就業者推計に重ねると、2034年にも約25.9%残ります。
ここで「2034年説は間違いだった」で終えることもできます。
しかし、数字を追うと別の意味が見えてきます。
2025年:約40.8%
↓
2030年:約32.3%
↓
2034年:約25.9%
↓
2040年:約17.1%
2034年は、最後の1人がいなくなる年ではありません。
まだ4人に1人いる年です。
だからこそ、ある意味では遅すぎない。
一方で、わずか9年前には約5人に2人だった世代です。
だから、いつまでも同じ状態が続くわけでもない。
この二つを同時に見る必要があります。
まとめ:日本のAI競争には「何を作るか」だけでなく「いつ聞くか」がある
日本のAI競争は、高性能なモデルを作れるかだけではありません。
バーティカルAIを本当に日本の強みにするなら、
何をAIへ入れるのか
が重要です。
そして、その候補の一つが、日本の現場に長年蓄積されてきた熟練知や暗黙知です。
政府の2026年の人工知能基本計画でも、暗黙知を含めた各現場の経験や知識をデータとして集積し、バーティカルAIなどへ活用していく方向が示されています。
しかし、その知識を持つ本人へ直接、
「なぜですか」
「どこを見ていますか」
「何がおかしいと感じたのですか」
と質問できる時間には限りがあります。
2034年は、熟練知が消える締切ではありません。
むしろ、
まだ経験者に直接聞ける余地が相当残っている一方、その環境が永遠ではないことを意識するための警告点
と見るべきでしょう。
AIによって人間を消すのではない。
人間が現場を離れる前に、その知恵へのアクセスを未来へ残すためにAIを使う。
バーティカルAIには、そんな役割もあるのではないでしょうか。
企業が今すぐ始めるなら、大きなAI予算を組むことが最初ではありません。
まず社内で、
「この人がいなくなったら、理由まで含めて誰も判断できなくなること」を10個挙げる。
そこから始めればいい。
人から人へ。
そして、
人からAIへ、AIから未来の人へ。
日本の技能継承には、いま第三のルートを作れる時間が残っています。
資料編:OpeNpeNデジタル世代早見表
以下は、2013年を基準にしたOpeNpeN独自の4世代分類をそのまま未来へ延長した早見表です。
人口比率や就業者比率を表すものではありません。「その年に、それぞれの世代がおおむね何歳になっているか」を見るための資料です。
| 年 | ①アナログ形成 | ②デジタル移行 | ③デジタル優勢 | ④デジタルネイティブ |
|---|---|---|---|---|
| 2026 | 53歳以上 | 26〜52歳 | 14〜25歳 | 0〜13歳 |
| 2027 | 54歳以上 | 27〜53歳 | 15〜26歳 | 0〜14歳 |
| 2028 | 55歳以上 | 28〜54歳 | 16〜27歳 | 0〜15歳 |
| 2029 | 56歳以上 | 29〜55歳 | 17〜28歳 | 0〜16歳 |
| 2030 | 57歳以上 | 30〜56歳 | 18〜29歳 | 0〜17歳 |
| 2031 | 58歳以上 | 31〜57歳 | 19〜30歳 | 0〜18歳 |
| 2032 | 59歳以上 | 32〜58歳 | 20〜31歳 | 0〜19歳 |
| 2033 | 60歳以上 | 33〜59歳 | 21〜32歳 | 0〜20歳 |
| 2034 | 61歳以上 | 34〜60歳 | 22〜33歳 | 0〜21歳 |
| 2035 | 62歳以上 | 35〜61歳 | 23〜34歳 | 0〜22歳 |
| 2036 | 63歳以上 | 36〜62歳 | 24〜35歳 | 0〜23歳 |
| 2037 | 64歳以上 | 37〜63歳 | 25〜36歳 | 0〜24歳 |
| 2038 | 65歳以上 | 38〜64歳 | 26〜37歳 | 0〜25歳 |
| 2039 | 66歳以上 | 39〜65歳 | 27〜38歳 | 0〜26歳 |
| 2040 | 67歳以上 | 40〜66歳 | 28〜39歳 | 0〜27歳 |
| 2041 | 68歳以上 | 41〜67歳 | 29〜40歳 | 0〜28歳 |
| 2042 | 69歳以上 | 42〜68歳 | 30〜41歳 | 0〜29歳 |
| 2043 | 70歳以上 | 43〜69歳 | 31〜42歳 | 0〜30歳 |
| 2044 | 71歳以上 | 44〜70歳 | 32〜43歳 | 0〜31歳 |
| 2045 | 72歳以上 | 45〜71歳 | 33〜44歳 | 0〜32歳 |
| 2046 | 73歳以上 | 46〜72歳 | 34〜45歳 | 0〜33歳 |
| 2047 | 74歳以上 | 47〜73歳 | 35〜46歳 | 0〜34歳 |
| 2048 | 75歳以上 | 48〜74歳 | 36〜47歳 | 0〜35歳 |
| 2049 | 76歳以上 | 49〜75歳 | 37〜48歳 | 0〜36歳 |
| 2050 | 77歳以上 | 50〜76歳 | 38〜49歳 | 0〜37歳 |
| 2051 | 78歳以上 | 51〜77歳 | 39〜50歳 | 0〜38歳 |
| 2052 | 79歳以上 | 52〜78歳 | 40〜51歳 | 0〜39歳 |
| 2053 | 80歳以上 | 53〜79歳 | 41〜52歳 | 0〜40歳 |
| 2054 | 81歳以上 | 54〜80歳 | 42〜53歳 | 0〜41歳 |
| 2055 | 82歳以上 | 55〜81歳 | 43〜54歳 | 0〜42歳 |
| 2056 | 83歳以上 | 56〜82歳 | 44〜55歳 | 0〜43歳 |
| 2057 | 84歳以上 | 57〜83歳 | 45〜56歳 | 0〜44歳 |
| 2058 | 85歳以上 | 58〜84歳 | 46〜57歳 | 0〜45歳 |
| 2059 | 86歳以上 | 59〜85歳 | 47〜58歳 | 0〜46歳 |
| 2060 | 87歳以上 | 60〜86歳 | 48〜59歳 | 0〜47歳 |
| 2061 | 88歳以上 | 61〜87歳 | 49〜60歳 | 0〜48歳 |
| 2062 | 89歳以上 | 62〜88歳 | 50〜61歳 | 0〜49歳 |
| 2063 | 90歳以上 | 63〜89歳 | 51〜62歳 | 0〜50歳 |
| 2064 | 91歳以上 | 64〜90歳 | 52〜63歳 | 0〜51歳 |
| 2065 | 92歳以上 | 65〜91歳 | 53〜64歳 | 0〜52歳 |
| 2066 | 93歳以上 | 66〜92歳 | 54〜65歳 | 0〜53歳 |
| 2067 | 94歳以上 | 67〜93歳 | 55〜66歳 | 0〜54歳 |
| 2068 | 95歳以上 | 68〜94歳 | 56〜67歳 | 0〜55歳 |
| 2069 | 96歳以上 | 69〜95歳 | 57〜68歳 | 0〜56歳 |
| 2070 | 97歳以上 | 70〜96歳 | 58〜69歳 | 0〜57歳 |
| 2071 | 98歳以上 | 71〜97歳 | 59〜70歳 | 0〜58歳 |
| 2072 | 99歳以上 | 72〜98歳 | 60〜71歳 | 0〜59歳 |
| 2073 | 100歳以上 | 73〜99歳 | 61〜72歳 | 0〜60歳 |
| 2074 | 101歳以上 | 74〜100歳 | 62〜73歳 | 0〜61歳 |
| 2075 | 102歳以上 | 75〜101歳 | 63〜74歳 | 0〜62歳 |
| 2076 | 103歳以上 | 76〜102歳 | 64〜75歳 | 0〜63歳 |
主な参考資料
- NTTドコモ モバイル社会研究所「モバイル社会白書2023年版」
- NTTドコモ モバイル社会研究所「携帯電話のスマートフォン比率98.3%」
- 労働政策研究・研修機構(JILPT)「2023年度版 労働力需給の推計」
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
- 内閣府「人工知能基本計画」2026年7月14日閣議決定
- 首相官邸「第5回人工知能戦略本部」2026年7月10日
- 厚生労働省・経済産業省・文部科学省「2025年版ものづくり白書」
- 労働政策研究・研修機構(JILPT)「ものづくり産業における人材確保・定着と技能継承に関する調査」

